これは,ある土地の買主から売主に対して,その土壌中にフッ素が基準値を超えて含まれていたことから,民法570条により損害賠償請求をした事案についての判決である。なお,フッ素は,人の健康にかかる被害を生ずる恐れがあるものとしてその売買契約締結の約10年後に規制対象となった。
最高裁は買主の請求を認めなかった。その理由は,売買契約締結当時の取引観念を斟酌すると,契約当事者間において,目的物である土地の品質・性能として,フッ素が人の健康を損なう限度を超えて土地の土壌中に含まれていないことが予定されていたものとみることができないので,現在の基準値を超えるフッ素が含まれていたとしても,民法570条の「瑕疵」には当たらない,ということだった。 民法570条は,売買の目的物に隠れた瑕疵があったときは,買主から売主に対する損害賠償請求等を認める規定である。買った物に変なところがあれば文句を言うことができるということが法律で定められているのである。 しかし,目的物にどの程度の品質・性能がなければ「瑕疵」があったということができるか,については問題である。今回の判決を見ると,最高裁は,「瑕疵」について,契約当事者の合意に基づいて通常または特別に予定されていた品質・性能を欠くことであると考えているようである。 今回の判決の事案のように,売買当時考えられていなかった目的物に潜在する危険性について,これから科学の発達により,後に明らかになっていくケースも考えられる。その時,その危険性を全て売主に負担させることはできないだろう。今回の判決にはそのような考えが根底にあるのではないだろうか。
by bengosi-iyo
| 2010-11-23 17:44
| 時事
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